


アドベンチャーツーリズムの映像は「きれいな日本の風景」を見せることではない。海外の旅行者が画面を見て「ここに行きたい」と判断を下す——その瞬間をつくることが、この映像の仕事だった。
JNTOが推進するアドベンチャーツーリズムは、「見る観光」ではなく「体験を通じて自分が変わる観光」。映像もその構造に従う必要がある。風景を紹介するのではなく、自然の中に人を置いたとき、その人の表情や身体がどう変わるかを捉えなければ、ターゲットには届かない。
もうひとつ、構造的な難しさがあった。日本の魅力を海外に伝えるとき、日本人の感覚で7割は正解を出せる。だが残り3割——海外の人が本当に心を動かされる瞬間——は、作り手側には予測しきれない。その3割が現場の演出の中から自然に出てくるように仕向けること。それがこの案件のPremise Designだった。
−30℃の知床で、流氷の上に立った瞬間の出演者の顔。あの表情は台本では書けない。それを撮り逃さない体制を、撮影前に組んでおく。

北海道から全国各地へ、複数のロケーションを横断する撮影。企画自体には携わっていないが、撮影技術と現場のディレクション力、自然環境下での総合的な判断力を求められてアサインされた。
演出設計の核は「リアルな初体験を撮る」こと。出演者をロケハンには連れていかない。本番で初めてその場所に立ち、初めてその自然に出会う。その最初の瞬間の表情こそが、ドキュメントでありリアルだと考えた。やり直しはできない。自然の中でのシネマティックな撮影は、基本的に一発勝負になる。
だからロケハンを綿密に行った。光の方向、地形の構造、時間帯による空気の変化を身体で把握し、本番では出演者をどこに配置して、どの角度から、どの瞬間を狙うかを事前に設計した。ただし、ロケハンから本番まで1週間あれば天候も季節感も変わる。知床の流氷はロケハン時には存在しなかった。すべてを想像し、現地ガイドへのヒアリングと、自然を長年観察してきたアート制作の経験、そして個人的なスノーボードでの雪山活動の蓄積から、撮影構成を組み立てた。
各ロケーションの演出方針:東北ではリアス式海岸のトレイルや雪の山寺など、自然の厳しさと静謐さの中に体験者を置いた。京都北部では自転車で街と海をつなぐ動線を設計。道東では−30℃近い環境の中、朝5時前に屈斜路湖から釧路川を下り、流氷の上を歩く体験を、出演者の身体反応とともに撮影した。


凍結リスクを織り込み済みでシネマカメラを選択。アシスタントと2名体制で全ロケーションに対応した。ドローンも自ら操縦し、地上では得られない空間の構造——海岸線の曲線、山稜のスケール、川面の光——を切り取っている。
この案件で求められたのは、アドベンチャーカメラマンのアクティブな画でも、テレビ山岳カメラマンのドキュメンタリーでもない。広告の演出構成力を持ちながら、過酷な自然環境の中で撮影を完遂できること。頭の中で構図と編集を組みながら、自然というステージに体験者を放り込み、予測不能な瞬間を確実に拾う——その両立が、この案件における技術的な核だった。
仕上げのグレーディングでは、彩度に頼らず光の階調で「自然の質」を表現した。SNSで拡散されるシネマティックな画と、アドベンチャーツーリズムのリアリティが同居するトーンに着地させている。長年のアート制作で鍛えた「自然のディテールを観察する目」が、すべてのカットの判断基準になった。

JNTO公式YouTubeを含むデジタル配信で世界に展開。日本各地の自然を「風景」としてではなく、「体験者の身体と表情を通じた物語」として構成したことで、観光映像の枠を超えた映像として機能した。
日本の魅力を海外に届けるとき、風景を見せるだけでは足りない。その自然の中に人が入ったとき、何が起きるか。そこに生まれる表情や身体の変化こそが、ターゲットである海外の旅行者に届く。その3割の正解を、現場で拾える体制を設計したことが、この案件の本質だった。
























