「空を見上げなくなった」感覚を、建築の中に再起動する
SUN AND MOON feat Daiwa house
Sense of wonderを呼び起こすもの
マンションのエントランスには、たいてい絵が飾ってある。でも、そこに何が飾られていたか覚えている人はほとんどいない。ダイワハウスからの依頼は、アート作家としてこの場所に何か取り組めないか、というものだった。飾られているだけで機能しないものではなく、そのマンションに住んだ意味になるものを置きたいと思った。
建築現場に立ったとき、丘の上にあって、空が広くて、月がとても綺麗に見えた。駅から帰ってくる人は、この坂道できっと月を見上げる。かつて人は太陽や月の運行を読み取りながら生きていた。その感覚は都市生活の中で必要とされなくなっただけで、消えたわけじゃない。沈んでいるだけだと思った。
帰り道に月を見上げる。その行為を、設計することにした。今日の月の形をリアルタイムで再現する照明装置をつくり、双子の建物のエントランスに設置した。天体のリズムを、住む人が毎日通る動線の中に移植した。
ある日、気がつく。嬉しい日も辛い日も、帰るあの道で月が出ている。エントランスに入って、「あ、これ今日の月の形なのか」と。一度気がついたら、月の形と自分の感覚が結びつき始める。今日なんだか元気がなかったのは、このせいだったのかな。やけに気分が良かったのは、この月の夜だったのか——人間に備わっていたはずの感覚の回路が、静かに再起動していく。
365日そこにあって、毎日少しずつ変わるもの。その感覚は引っ越しても自分のものとして残る。そのマンションに住んだ2〜3年が人生の財産になる。「エントランスに絵を飾る」を、「感覚を再起動する装置」に読み替えた。月を見上げるという行為。そこに宿る感情。その感覚を、365日機能する構造にした。それが、感覚構造設計だ。